男同士の友情とは何か

セクシャリティ問題を考えさせられるLGBT映画特集

結ばれぬ想いの果てに

最終的に、お互いがそれぞれ想い合っていたという事実だけはどんな事があっても変わらなかったのです。友人として、恋人として、その両方の意味を持って2人はこれからも幸せに過ごしていけるだろうと信じていたが、そんな日も長くは続きませんでした。

ある時、イニスがジャック宛に出したハガキには、受取人が死亡しているので返ってきたというスタンプが貼られていたのです。何が起きたのか分からず、事情を確かめるためにジャックの妻に電話をかけると交通事故による即死だったという。痛ましい事故現場はイニスの心に刻まれたトラウマを呼び起こすのに十分だった、しかも相手はずっと慕い合っていた人間だけあってショックは計り知れなかった。いつか一緒に暮らそうという夢、それすらも実現することが出来なかったイニスだったが、ジャックの遺言にはかつて2人で共に過ごしたあの山で遺灰を撒いて欲しいという希望をしていたという。

イニスは後にジャックの両親を尋ねるために自宅を訪れる、そして案内されたジャックの部屋にはかつて自分がなくしたと思っていたシャツがそこに掛けられていた。その上に覆いかぶさるよう掛けられているジャックのシャツ、それだけで彼がどれだけ自分を想っていたのか、どれほど自分のことを待っていたのかを悟るのに十分過ぎただろう。

その手にとって残り香を嗅ぎ、いつか来るかもしれなかった未来を思い描きながらイニスは泣き崩れる、そんな結末を辿ってしまいます。映画としてみても、男性同士ではあるが純粋に一人の人を想い続ける心とそれが永劫変わることはない、テーマに恥じない世界観を構築していることだけは間違いない。

同性でいる楽しさと気楽さ

LGBT映画などで描かれているゲイやレズ、それらのセクシャルマイノリティの人々にすれば同性の恋人というものは友情もあれば、同時に愛情もある。男女間でも少なからず恋愛とともに互いを尊敬しあう心を持たなければ関係は継続しないものだ。ただ性別という壁が障害となって、どうしても乗り越えることが出来ない時もある。そういう時ほど、異性同士の対話ではなく同性同士の会話が楽しいと思えるようになる、これは誰しもあることだろう。

特に同性の友達同士ともなれば、親しき仲にも礼儀ありを守っていれば、それこそ何年も関係を継続させることが出来るものだ。互いに心内が知れているとはいえ、お互いの生活を尊重しながらも時に会って話せば落ち着くと言った感情になるものだ。こうした関係は同性の友人だからこそ出来る芸当だろう、仮にここへ恋愛という要素が組み込まれたら中々そうも行きません。何かと嫉妬したり、誰と会っているのかと、そんな想いが交錯したら焦燥感に駆られるものだ。

イニスにしてもジャックにしてもそう、最初は友情という一歩から入っていた関係が踏み外して、いつまでもずっと側にいたいという感情が強くなってしまった。互いを貪る姿を目撃されてしまい、イニストは妻との関係がギクシャクする中で、ジャックは毅然と家庭でも上手く立ちまわっていく。この2人の差はあまりに天地が離れすぎている、イニスが別れた妻と子どもたちに支払う養育費を支払うことに躍起し、会えなくなる頻度が増えてしまったことをジャックが咎め、イニスがジャックのせいだと罵る。

こうしてみると男女の恋愛関係と何ら変わりないと思えるのは気のせいではないだろう。同性同士の恋愛だからとはいえ、やはりプライベートな空間にまで踏み込んでいくとしたら覚悟しなければならない、そういうことになってしまうのです。

世間体やしがらみ

またイニスとジャックの前に立ちはだかった壁で最も大きなものは、世間・社会というしがらみや常識という枠組みだった。今でこそ同性同士で結婚することも出来る時代になりましたが、その当時は違いました。同性愛者は恥ずべきものである、などとされていたために誰もがその心を解放することが出来ずにいました。日本も今ではまだそれなりにマシとみられるようになってはいるものの、セクシャルマイノリティという意味でまだまだ受け入れられない人も沢山いる。

このブロークバック・マウンテンとはそんな時代におけるアメリカで生きていた同性愛者達の姿が克明に描かれている。それこそ何一つ、いつまでも変わらない想いとともに、普遍的な愛を貫くことの難しさを物語っています。

映画賞総ナメも分かる

通常の恋愛映画であっても感動をもたらすような内容ですが、これが同性愛という複雑な物をテーマにしている分だけあって、底知れぬ説得力がある。愛することの難しさ、例え別々の道を辿る事になったとしても、抱える想いは同じだという説得力がそこには込められている。愛を謳う、その意味でこの作品が成し得た完成度に世界が喚起したのも納得ができる。

これは見といたほうがいいですよ

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